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庭のあれこれ

惑う樹木治療

  樹木医の樹勢回復術といえば、木の空洞の腐朽部を削り、モルタルやウレタンフォームで充填して着色する、というイメージがあると思います。
うろに溜まった水を抜くためにドリルで穴をあけ、中の腐朽部を削り、殺菌剤を塗布して乾燥させる。
 そんな作業を苦労して行っていました。
 少し前の樹木医関連の本を読むと、みなそう書いています。
 曰く、腐朽部は出来るだけ削り取らないと、そこからまた腐れが広がってしまう。
 曰く、うろに溜まった水は腐り、腐朽部を広げるので、すぐさま穴をあけて水抜きをしなければならない。等々、

 この「常識」を打ち破ったのが、「理想的剪定法」で取り上げたアメリカのShigo博士のCODIT論です。
樹木治療は樹木の持っている「区画化」の働きを強めることが大切で、腐朽部を削り取ったり、ドリルで穴を開けるなどはもってのほかだと言うのです。
 区画化の働きをする細胞は、腐朽部のすぐ下にあるので、削り取る際に傷をつけてしまいます。そんなことをするよりは、根系の発達を調査して、土壌改良を施 した方が良いし、モルタルやウレタンフォームで空洞を充填するよりは、支柱を設置した方が良い、と言うのです。

  これに対して、日本で長らく樹木治療を指導してきた安盛博氏は、「CODIT論は樹木に病原体が侵入した時に、樹木自体が対応する反応としては間違いない ところだと考えられる。しかし、それにもかかわらず樹木はやがて病気で枯れてしまう。すなわち枯死にいたる過程が ー 長い年月を要するのかもしれないが ー 樹木の防衛反応の次に起こっていなければならないことになる。Shigoはその問題は対象にしないのだと A NEW TREE BIOLOGY のなかで述べている。しかし、日本の天然記念物や巨樹の保護には、抵抗性の理論も重要だが、枯死にいたる過程からの示唆を必要としているように思える」と 述べています。(『樹木医ハンドブックU CODIT論を考える 』牧野出版)

  アメリカは訴訟社会なので、大きな木が倒れるとたちまち周辺から被害が訴えられる。日本のように巨樹が信仰の対象になるような発想がないので、木がどれだ け生き残れるかより、どこまでなら安全かを考える、そういう社会の中でCODIT論が受け入れられている、と安盛氏は言います。

 要するに樹木治療に関してのデータはまだ蓄積状態で、現場も試行錯誤、CODIT論は重要な根拠になるけれども、それで樹体全体をカバーできるかと言えば、まだはっきりしていない、というのが実情のようです。

 惑える樹木医療。
木一本、まだまだ奥は深いようです。

 

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