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庭のあれこれ

庭の落ち葉は取る? 取らない?

 


 庭にある落ち葉をどうするか、ということについては、以前、「庭のあれこれ」というところで書いた事があります。 → 落ち葉は肥料になる?

  それから、ブログにも補足のような記事を書いた事があります。
  → 落ち葉は取る?取らない?

 そこに書いたことに、少し言葉が足りないかな、と思うところもあるので付け加えにまた書いてみます。

 まず、最初に強調しておきたいのは、基本的に、落ち葉をどうするかは、そこにお住まいの方の考え次第、ということです。
  なんと言っても、そこで日々暮らされる方の好みや気持ちが優先されるのが当然の事だと思います。
  ただ、植木屋としてはどう思うか、となると「落ち葉は取ります」ということになります。

  以前説明した理由は、以下のようなものでした。  

 たとえば、落ち葉が完全に発酵して腐葉土になる場合、腐葉土の厚み地表1cm分を作るのにほぼ100年かかると言われていて、一度集めて堆肥化(早ければ数ヶ月で完熟します)して使った方がよほど効率がいい、とか。
落ち葉の下は害虫の絶好の越冬場所になる、とか。
落ち葉があまり厚く積もると、地表に光が当たらなくなり、山野草や草花などは生育しにくくなる、などです。

 

 ただ、そうは言っても、実際の所、落ち葉掃除をしていると、落ち葉の下でちょうどいい感じで土が団粒構造(植物が生育するのに最高の土壌です)になっているのを発見したりと、必ずしも植物の生育環境としてよくないとは言えないこともあります。

  それでも、やはり、「落ち葉は取ります」というのは、美意識の問題なのだと思います。
  植木屋は、職人修行をした事がある人なら、誰でもたいていは掃除から仕事を教えられます。
  それもただ漫然と掃除をするのではなく、隅から隅まできっちりと、空間に気が通るような仕上げ作業としての掃除を仕込まれます。
  そういう修行を経る事で、庭はただ植物があるというだけでなく、気韻香る、凛とした空間なのだということを肌で覚えていきます。
  日本の庭は、禅の影響を色濃く受けていると言われています。

 よく引き合いに出されるのが、千利休にまつわるエピソードです。
 利休が若い頃、貴人を迎えるために庭を掃き清めていました。季節は、モミジが紅葉する頃、地面の上には落葉した紅葉が散り積もっていました。
 利休は、その積もったモミジをきれいに、塵一つないまで、掃き清めました。
 そして、最後に、モミジの枝を揺らし、キレイに仕上がった地面の上に、ハラハラとモミジの葉を散らしたのです。

  禅の影響もあるこうした美意識によって、世界の中でも独自と言われる日本の庭文化は作られ、受け継がれてきたのだと思います。
 「日本庭園」と言って一般的に思い浮かべられるのは、枯山水であったり、灯籠であったり、つくばいであったり、池泉であったりしますが、実はそうしたアイテムは、ただの形式に過ぎず、日本の庭文化に必須の要素ではないのです。
 「日本庭園」に大切なのは、庭をただの家の前の空間というだけでなく、そこはかとなく精神性を感じさせるような気韻ある空間に仕上げる事であるように思います。
 そう考えると、掃除は、ただ剪定枝や落ち葉を集めるのではなく、空間全体を仕上げるための、最も大切な作業となります。

  こうした美意識の影響を若干なりとも受けている植木屋であれば、どうしても落ち葉は取ります、ということになります。
  植木屋の中には、落ち葉を庭の景観の一部として取り込むような庭でも、一度隅々まできっちり掃除をした後に、最後にまた落ち葉を撒く、というような手入れをされている方もいらっしゃいます。
 「手入れ」は手を入れる事、手間をかけてこそ、庭は美しくなるという意識は、今でも受け継がれています。

 一度掃除をしてもう一度散らすなんて、一見無駄とも思える手間をかけて、何が違うのか、と思われるかもしれませんが、これはもう見て実感していただくしかないと思います。
 隅々まで手を入れた庭は、全体に気が通っていて、爽やかで気品がある仕上がりになるのです。

 ですから、剪定だけお願いします、掃除は自分でするからいいです、と言われる事は、掃除修行をした事がある植木屋にとってはヒジョーにサビシイことでもあります。
  その掃除、掃除こそが腕の見せ所なんです!と心の中で密かに叫んでいるかも知れません。
  逆に、掃除まで仕上げて、「まぁ!うちの庭が京都のお寺のようになったわ!」などと言っていただくと、心の中で小躍りしています。

 分かっていただけると嬉しいなぁ…という、植木屋の気持ちを書いてみました。

 

 ●関連項目: 「落ち葉は肥料になる?

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庭園管理 植吉 代表者 鎌田吉一 福島県いわき市田人町黒田字寺ノ下46−1