美しい空間と時間 庭園管理植吉
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植木屋雑記帳

 

■蝦蟇(ガマ) 

 庭の掃除は這いつくばってやる。剪定した枝葉のつっかかりをよく落とし、クマデや竹箒で大ゴミを出した後、木 の下や灯篭の下、竹垣の後ろなどに入り込んだゴミやホコリを手製のホウキで掃き出す。手製のホウキとは、古くなった竹箒をばらし、細い穂先だけを針金で束 ねたもの(コボーキと呼んでいる)や、庭箒の柄をノコギリで切って首だけの状態にしたもの(クサボーキと呼んでいる)で、これがないと本当の掃除はできな い。庭の掃除は這いつくばってやる。植木鉢や重ねてある瓦、石などは転がしてその裏まで掃除する。剪(はさ)むより掃除の方が手間がかかると言ってもよ い。植木屋になって数年はみっちりこの掃除を仕込まれる。葉っぱ一枚落ちていてはいけない。足跡を残してもいけない。だからいつも後ずさりしながらやる。 庭の掃除は這いつくばってやる。何年も通っているお庭だと、四つん這いになりながら後ずさり、この辺になんの枝があり、この幹の脇にはこのくらいの石があ り、窪みがあるということを身体が覚えている。クマデや竹箒やブロアー(送風機)で済ませた掃除は、剪定がいくら綺麗に仕上がっても、庭全体の空気が違 う。香らないのだ。

 つくばいなどの水周りを掃除していると、手のひらもある蝦蟇がの そりと這い出してきてぎょっとさせられる。古い庭には必ずと言ってよいほどいる。軍手でそっと抱えて邪魔にならないところに移動願う。タケさんは猪の首で いつも右肩をひくひくさせている50歳後半の気のいい独身男で見事な掃除をする職人だけれど、蝦蟇だけはどうにも駄目で、うっ、と絶句したまま動かなくな る。虫や蛇は平気なのに蝦蟇は駄目だ。

 植木屋になりたてのころ、庭の池に蝦蟇の屍骸が浮いていた。オタマジャクシがたくさん泳いでいて、母親の身体をついばんでいた。自然は親の死骸も無駄にしない。こんなことどもが少しずつ自分に元気をくれたのだ。

 

 

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庭園管理 植吉 代表者 鎌田吉一 福島県いわき市田人町黒田字唐沢14