美しい空間と時間 庭園管理植吉
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植木屋雑記帳

 

■  カブトムシ 

 太陽が額をじりじり灼くような日だった。
 できるだけ影を選んで仕事した。
 影がなくなると、フレアを浴びる宇宙船飛行士のように気合いを入れた。
 昼はコナラの木陰で弁当にした。
 蟻が舗路を忙しげに歩き回っている。
 それが蜃気楼のように見えた。
 ヒグラシが啼く頃、おアシをいただいて帰った。
 
 家に帰って道具を片づけていると、脇を流れる用水路の縁にカブトムシがいた。
 サナギの時に傷ついたのか、翅が萎縮したままだった。
 これでは自由に飛び回ったり、交尾の相手を見つけたりは出来ないだろう。
 陰気なところで動かないので、死んでいるのかと思った。
 足先でつついたら怒ったように動いた。
 
 子どもの頃、近所におが屑を山積みにしている空き地があった。
 夏の夕暮れ、そのおが屑の山から、次々にカブトムシが這い出してきた。
 これから世界は祝祭が始まるようだった。
 小学生時分の一番楽しい思い出はこのことだったような気がする。

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庭園管理 植吉 代表者 鎌田吉一 福島県いわき市田人町黒田字唐沢14