カブトムシ
太陽が額をじりじり灼くような日だった。 できるだけ影を選んで仕事した。 影がなくなると、フレアを浴びる宇宙船飛行士のように気合いを入れた。 昼はコナラの木陰で弁当にした。 蟻が舗路を忙しげに歩き回っている。 それが蜃気楼のように見えた。 ヒグラシが啼く頃、おアシをいただいて帰った。 家に帰って道具を片づけていると、脇を流れる用水路の縁にカブトムシがいた。 サナギの時に傷ついたのか、翅が萎縮したままだった。 これでは自由に飛び回ったり、交尾の相手を見つけたりは出来ないだろう。 陰気なところで動かないので、死んでいるのかと思った。 足先でつついたら怒ったように動いた。 子どもの頃、近所におが屑を山積みにしている空き地があった。 夏の夕暮れ、そのおが屑の山から、次々にカブトムシが這い出してきた。 これから世界は祝祭が始まるようだった。 小学生時分の一番楽しい思い出はこのことだったような気がする。
庭園管理 植吉 代表者 鎌田吉一 福島県いわき市田人町黒田字唐沢14