村の鍛冶屋
現場の近くの村に鍛冶屋があったので寄ってみた。 道路に面して八畳くらいの仕事場があり、 ガラス戸に鍬や鎌や鉈や菜切包丁の仕上がり品を見せていた。 無骨だがよく鍛えられた刃が光っている。 仕事場の中には大きな回転砥石と、ベルトで動く鎚打ち機と、鋼を冷やす水槽がある だけで、壁に様々な種類のヤットコがかかっていた。 オヤジはもう70過ぎだろうか、おだやかに話をする。 鉈を見せてくれと言うと、新聞紙に包んだ、いかにも手打ちと言う風情のわざものを 出してきた。 樫の柄も手作りで、削り跡がごつごつしている。 値を訊くと「○千円貰っているんだ」と恥ずかしそうに応えた。 それはホームセンターの倍以上の値だったが、「貰っている」と言う言い方がうれし かった。 自分で作って自分で売るから誰のせいにも出来ない。 モノが傷めば直すし、刃が欠ければハガネを打ち直す。 どのくらいこの商売しているのかと訊いたら、微かに笑って、生まれた時からここで こうして何処へも行かずに生きてきた、と応えた。 食える商売じゃない。オレもあと二三年やれればいいと言う。 鉈の代金を払い、釣りを受け取ると、旧五百円玉が油で汚れていた。
庭園管理 植吉 代表者 鎌田吉一 福島県いわき市田人町黒田字唐沢14