美しい空間と時間 庭園管理植吉
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植木屋雑記帳

 

■冬の庭

 冬陽に目を刺されながら、シャラの木の古皮を剥く。
オレンジの斑(まだら)。
赤松が妙齢の婦(おんな)なら、沙羅は若い娘か。
身を固く締め。

 金木犀の綾枝を抜く。
もっと始まりの方へ光を届かせる。
姿にやわらかな風を入れる。

 と、向こうの方から空気を賑わせて、
二三羽の鳥がついと行った。
いま抜いた枝と枝の間を。

 ときおり見えない葉陰に鳥の巣を見かける。
つややかな卵に驚くこともある。
鳥はどれも必死な目をしている。
必死に生きて、うたい、いつか
落ちるように死ぬ。

 zakuro

 冬ざれの石榴を鋏む。
棘を傷みながら手を伸ばす。
手が逃げる。
ピラカンサやユズほどではないが。疼痛。
鳥の残した実が細い枝先に揺れる。

 脚立の上でザクロを頬張る。
思いの外まだみずみずしい。
犬のようにむしゃぶり、種を吐き散らす。
小さい時間。
地を染めた、
サザンカの花びらの上。

 

 アララギ

 霜柱が立った。
寺の一位(イチイ)を刈り込む。
榧(カヤ)に似るが、葉が痛くないので、すぐ分かる。
脚立の下の躑躅(ツツジ)が狂い咲きしている。

 帰り花には死の匂いがする。
植物生理的には、
干天が続いたり台風などで木が痛めつけられたりした年に多いらしい。
色うすく冬の日だまりにふるえている。

 いちにちがゆく。
夕闇の空を後ろに透かして刈り込んだ玉の仕上がりをみる。

南西に爪のような月。

 

雪催 ゆきもよい

 参道のユキヤナギの生垣を刈り込む。
黄葉した小さい葉が曇り空に光るようだ。
触れればハラハラ散るひかりの置き処。

 しだいに冷え込んできた。
今日は午後から雪の予報。
それまでに高く徒長した菩提樹の枝を詰める。
吐く息が白い。

  鳥も木もうたがひぶかく雪催  (千代田葛彦)

 昼寝から起きたら雨だった。
熱い茶を飲んでから合羽を着込む。
脚立が濡れて冷たい。

老猫

 今日はシイノキの懐で半日を過ごした。
隣家の日だまりに老いた猫が二匹うずくまっていた。
毛がぼさぼさで肉が衰えていた。
一匹はブロック塀の上、もう一匹はトタンの物置の上にいた。
ブロックの上の猫は白に茶の三毛で、向こうを向いていた。
トタンの上のは黒っぽく、斜めにこちらを向いていた。
二匹とも大きな猫だった。
冬の陽がゆっくりとふたつを温めていた。

 猫だったことがある。

 それから椎木だったこともある。

 そうしてこうして、
なんだか、

 なにもかもが、

 とにかく、
こうして分かれ、

 かなしかった。

冬の蜥蜴

 今日はひどく寒かった。
ニシキギとツバキの移殖。
久しぶりの穴掘り仕事で土まみれになる。
古いプランターを動かしたら、下にトカゲが二匹丸く重なって冬眠していた。 
つついても動かない。
目も開かない。
丸く硬直したまま風に震えている。

 夏、
トカゲの幼体の尾は鮮やかな瑠璃色をしていた。
日盛りに石垣の上などを高速で横切った。
場が蜥蜴を速度として私に見せていた。

 いまは凍結している。
ひっそりと寄り添って仮死している。
停止した小さな夏の装置、
そっと移動してまた穴を掘った。

 

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庭園管理 植吉 代表者 鎌田吉一 福島県いわき市田人町黒田字唐沢14